2 0 2 4 年 年 頭 所 感
一般社団法人全国信用金庫協会
会 長 御 室 健一郎
はじめに、元日の夕刻に発生した石川県能登地方を震源とする、令和6年能登半島地震は、各地に甚大な被害をもたらし、尊い命が奪われました。今現在も断続的に余震が続いている状況です。
被災された地域の皆様、信用金庫の皆様方には、心からお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧・復興をお祈りいたします。
それでは、2024 年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。
昨年は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「2類」から「5類」に引き下げられたことにより、感染者や濃厚接触者の行動制限が緩和され、感染症対策は個人や企業の自主判断となり、社会経済活動の正常化が進みました。
その後は、飲食や観光などを中心に、国内のサービス消費や海外旅行者の増加によるインバウンド消費も回復するなど、我が国の景気は緩やかな回復が続いております。今年もコロナ禍からの脱却がさらに進み、日本経済がより力強く回復していくことを期待したいと思います。
一方で、ウクライナやパレスチナなどをめぐる地政学的リスクの増大や米欧の中央銀行の金融引き締めに伴う円安局面の長期化など、世界の政治経済情勢が資源・穀物価格の上昇圧力となり、取引先中小企業の業況回復の重荷となっています。また、中国経済の先行き懸念、日本銀行の金融政策の動向も考えると、内外共に、経済・金融の両面で依然として不確実性が高い状況が続いています。
さらに、我が国では人口減少と少子高齢化が急速に進んでおり、将来的な消費の縮小の恐れに加え、労働力人口の減少に伴う慢性的な人手不足が、さらなる経済成長の足かせとなっており、業界としても人口減少を前提とした今後の地域経済との関わり方を考えなければならない状況となっています。
こうした内外の政治経済情勢が複雑に絡み合う状況下において、信用金庫は、取引先中小企業が経営環境の変化に的確に対応できるよう、本年も変わらず取引先中小企業の課題解決に取り組み、地域社会・経済の持続的な発展に向けて、その役割をこれまで以上に発揮していくことが期待され、求められております。
そこで迎えた新年ですが、信用金庫業界が重点的に取り組むべき課題について、いくつか申し述べたいと存じます。
第一点目は、「新3か年計画の積極的な推進」です。
これまで業界では、個別信用金庫が中長期経営計画等を策定する際の参考として「中期経営計画策定要綱」を作成してまいりました。現行の3か年計画の計画期間が 2024 年3月をもって満了となることから、この度「しんきん『未来を拓く変革への挑戦』3か年計画~信用金庫の真価の発揮と地域の持続的発展を目指して~」を策定し、2024 年4月からの3か年計画がスタートします。
冒頭申し上げたように、国内外の政治経済情勢の不確実性は長期化しており、信用金庫や取引先中小企業をめぐる経営環境については、今後も様々な変革の波が押し寄せることが予想されます。
このような状況の下、取引先中小企業、ひいては地域社会が今後も発展していくためには、この変革の波に対応しつつ、新たな市場の開拓や新しいビジネスモデルを生み出していくことが不可欠であり、信用金庫も自己変革による変化への対応を図り、職員の活力をさらに喚起して、取引先中小企業や地域社会に貢献できる存在であり続けなければなりません。
取引先中小企業の支援や地域経済の活性化を通じて、地域経済の持続的な発展に寄与するとともに、地域の金融の担い手として、地域の活性化に向けた取組みを推進していくことは、信用金庫の普遍的な責務であります。
さらに、社会環境が複雑化する今日にあっては、取引先中小企業のみならず様々な分野で信用金庫のサポートが必要とされる場面は増えているものと考えられ、地域社会の負託に応えて様々な課題解決に取り組む必要があると考えています。
このような認識の下、新たな策定要綱では、信用金庫の目指すべき姿として「信用金庫は、会員、お客さま、そして職員をはじめとする地域のすべての人の成長と幸せのために行動し、協同組織の地域金融機関として地域が抱える課題解決に貢献し、持続可能な地域社会を創る」ことを掲げ、そのために必要となる取組みを例示しています。
個々の信用金庫が置かれた状況は様々ですが、信用金庫が相互扶助の経営理念と協同組織としての特性や強みを活かし、地域と共にそれぞれの課題の解決に取り組み、事業者・個人を問わず、一人でも多くの方が笑顔で暮らせる持続可能な地域社会を創り、それを次世代に引き継ぐ責務があると考えられます。すべての信用金庫がそれぞれの地域において必要不可欠な存在であり続けることを目指してまいりたいと考えております。
第二点目は、「伴走支援の推進」です。
信用金庫は、これまでも事業計画の作成や事業承継、販路拡大、デジタル化への対応や海外進出などの取引先中小企業が直面する様々な経営課題について、二人三脚でその解決に取り組んでまいりました。
現下の厳しい経営環境においては、中小企業の経営者が単独で経営課題を解決していくことは難しく、信用金庫による伴走支援のニーズは従来にも増して高まっています。
伴走支援により、取引先中小企業の経営力を強化し、新たなビジネスチャンスを生み出すことで、取引先中小企業や地域社会の持続的な発展に寄与していくことが重要であり、私ども信用金庫はこのような取組みをさらに推進していくことが必要であると考えています。
第三点目は、「環境変化に対応した経営基盤の強化」です。
わが国は、少子・高齢化の加速に歯止めがかからず、経済が緩やかに回復するにつれて、人手不足の問題が一層懸念されます。信用金庫の基盤となる地域社会においても、人口や事業所の減少、労働力不足による資金ニーズの減少に直面しており、低金利環境の長期化も相まって、信用金庫の収益環境は一段と厳しくなっております。
信用金庫が地域社会の課題解決に貢献し、地域経済の回復と発展を支えていくためには、今後想定しうる環境変化を見据えたリスク管理や業務の合理化・効率化により経営基盤を強化し、将来にわたって健全性を確保していくことが必要です。
特に2%の物価安定目標の実現の兆しや内外の金利差の状況を踏まえると、日本銀行がいつ金融政策の見直しを行ってもおかしくはありません。これまでも信用金庫は、慎重なリスク管理に努めておりますが、来るべき金利上昇局面に備えて、金融市場の動きを注視したポートフォリオ管理により一層留意する必要があると考えています。
第四点目は、「進展するデジタル技術への適応」です。
昨年は、対話型AIに代表される生成AIが世界を席巻いたしましたが、こうしたAIの進化は、デジタル技術の進展を牽引する大きな潮流となっています。AIは、驚異的なスピードで学習を重ね、今や人間と同等以上の知能を備えるようになっており、これまで人間が行っていた業務の自動化や新たなサービスの創出などが可能になっています。
慢性的な人手不足、消費者の価値観・行動様式の変化等の潮流が一層強まるなか、信用金庫の経営においても、 職員の業務に供する時間の捻出や取引先中小企業・個人顧客のニーズの変化に対応するために、デジタル化への取組みを積極的に推進して生産性を高めていかなければなりません。
また、近年は、デジタル分野に強みを有する異業種の参入や バンキングアプリの普及にも拍車がかかっており、対顧客業務に関するデジタル化の取組みの遅れは、信用金庫の競争力に重大な影響を及ぼす恐れがあります。
信用金庫は、デジタル技術の進展の動向を絶えず注視しつつ、業務やサービスに関するデジタル化の取組みを一段と加速し、社会環境の変化に適応していく必要があります。
全信協、信金中金、SSC、共同センター、さらには各地区の情報サービス会社や各地区協会においても、互いに緊密に連携しながら、信用金庫のニーズに即応した金融業務のデジタル化を引き続きサポートしていくことが肝要であると考えています。
第五点目は、「戦略的な広報の実現」です。
信用金庫が自らの存在意義を地域社会の皆さまに認めていただくためには、地域社会において信用金庫の理念・活動・サービスなどに対する理解を深めていただき、地域やSDGsに貢献する取組みについても広くアピールしていく必要があります。
このため、全信協においては、信金中金などとも連携し、個々の信用金庫が単体では手掛けにくい広範かつ多様な広報活動を業界として展開していくことで、「信用金庫の認知度・好感度の向上」や「信用金庫の顧客数の増加、顧客層の拡大」、「優秀な人材の確保」につなげていくことが求められています。
こうした業界広報の目的を達成するため、広報対象となる世代等や伝えるべき信用金庫の価値を明確に設定し、それらに応じた最適な表現・手法を選択するなど、より効果的な広報活動をより効率的に推進してまいりたいと考えています。
以上、縷々申し上げましたが、本年も業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、業界にとって多事多端な年になるものと思います。
全国の信用金庫が一致団結して、これを乗り越え、信用金庫が地域で求められる機能を存分に発揮し、地域の経済や社会の持続的な発展に貢献していく、実り豊かな一年にしたいと思います。
全信協といたしましては、信金中金をはじめとする業界関連組織と引き続き相互に連携を深め、全国の信用金庫をつなぐ中核機関として、会員信用金庫の期待に応えるべく全力を傾注してまいりたいと考えておりますので、引き続き皆さまのご支援、ご鞭撻を賜わりますようお願い申し上げます。
結びになりますが、この一年が皆さま方にとりまして良い年となりますように祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。
<了>